私と地球をむすびなおす-地球を体感し気候変動を学ぶ硫黄島リトリート-

Client: 個人

Period: 1泊2日〜

Team: 大岩根 尚

Outline

概要

持続可能な社会をと言うときに、私たちは社会や経済の仕組みにアプローチすることをまず考えがちです。しかし実は、私たちの常識である社会や経済の枠組みは、地球の歴史からするとあまりにも小さな時空間スケールに偏ったものでもあります。

圧倒的な大自然に抱かれ、五感と頭脳をフルに使いながら「地球の常識」にチューニングを合わせてみることが、気候変動のような地球スケールの課題に対しては必要であるはず。そんな仮説のもと、二泊三日のリトリートを開催しました。

Vision

実現したい状態

地球を論理的に・直感的に理解した上で文明のあり方を見直す

リトリートを開催した薩摩硫黄島は、日本で最も新しい超巨大噴火が起きた場所です。地質学者である大岩根の解説とともに島をめぐって地層や地形に残された証拠から噴火の歴史を読み取ることで、私たちの常識を超えた圧倒的な地球のエネルギーを論理的に理解します。 また、島の周囲を染め上げる温泉の海でのシーカヤックや、活火山である硫黄岳周辺のトレッキングなどのアクティビティにより、地球のもつ熱量の膨大さを五感で感じ取り、直感的に地球の営みの壮大さを理解します。 論理的・直感的に地球を理解した上で、地球温暖化という地球規模の課題を考える。このことにより、普段の常識のスコープから外れた地球の軸足を置いた本質的な議論が交わされることを意図しました。

Process

プロセスデザイン

1. まずは、見る

硫黄島に到着後すぐに、まずは島内各地をめぐります。
噴煙を上げ続ける硫黄岳の姿や、火山ガスが噴出する音、温泉が染め上げた海の模様が刻々と変化する様子など、普段は目にすることのない風景を見ながら「自分たちが住んでいる地球が生きている」ことを現象として直感的に理解します。
この惑星に蓄えられたエネルギーの出口である火山の迫力を受け取り、意識を地球に向け始めます。

2. 地球の熱を感じる

島のいたる所から湧き出す温泉に身体を浸し、地球の熱を感じます。
温泉と海水が混ざり合う場所で、温泉の熱や酸性の温泉水による目や肌への刺激、そして波の力や冷たさ、温泉水と海水が反応した様々な海の色など、五感を刺激し、生物の個体としての自分の身体の本音にも意識を向けてゆきます。

3. 海を感じる

シーカヤックに乗り、超巨大噴火の火口壁に近づいてみたり、温泉混じりの暖かい海水に触ったり、天然の洞窟に入ってみたりなど、地球そのものの営みを海の上から味わいます。延々と寄せてくる波や海上/海岸の漂着ゴミから、海がひと繋がりであることにも意識を向けます。

4. 土地や季節を感じる

レストランのない硫黄島では、食事も自分たちで。
南九州以南にしか生育しない大名筍を自分たちで採り、シンプルに丸焼きにして食べる。昔はそれしかできなかったはずですが、土地のもの旬のものを味わうという「お金を使わない贅沢」を味わいます。
豊かさとは?という問いも、参加者の中から自然と生まれてきます。

5. 地球の歴史を読み取る

地質学者の大岩根の解説により、岩石や地層や地形から過去の出来事を読み取る方法を具体的に学びます。
ただの岩や崖にしか見えていなかったものが意味を持って語りかけてくるようになり、自分が立っていた場所で途方もないことが起こった、ということを理解できてくると見えていた世界が一変します。
また噴気エリアに近づき、火山ガスや水蒸気の熱を直接感じることによっても、よりリアリティを持って地球のエネルギーの膨大さを理解することができます。

6. これからの自分たちの在り方を考える

地球の時間・空間スケールに五感も意識もチューニングを合わせた状態で、気候変動という地球規模の問題を考えます。今回は、南極観測隊での気候変動研究の経験を踏まえ、地球の気候システムの概略をお話しし、これからの気候変動対策について議論しました。参加者の多彩なバックグラウンドを反映して、議論も深り広がります。地球に生きること、災害やレジリエンス、社会のシステムや経済との繋がり、関係資本を創ることなどなど、、あっという間に予定時間を超過してしまいました。

7. 参加者みんなの体験を自分のものに

参加者それぞれが、それぞれの経験や背景をもとに感じ取った今回の体験について、一人一人が話し、全員がそれを受け取ります。それぞれの視点からの体験が共有され、全員の学びに変わってゆきます。
実施した大岩根の所感を含めた詳細レポートはこちらから。

Harvest

収穫

福島 創太
教育社会学者
株式会社教育と探求社 開発部マネージャー

地球も自分も、生きている。

硫黄島は、何千年、何万年という時間の流れを感じさせてくれる場所でした。
足早に過ぎ去っていく日常や、目の前で取り組んでいる問題について、一度足を止めて改めて考えるのには、これ以上ない空間でした。

ビジネスの世界で様々なチャレンジに取り組んでいると、目の前の問題や新たな打ち手をあまりにも短い時間軸で捉えすぎてはいないかと不安になるときがある。
そんなとき大学にいって、長い時間軸で問題を捉え直したり、長い歴史の中で紡ぎ出された叡智にふれることで冷静さを取り戻し、バランスをとっているようなところがある。


今回硫黄島で、地質学を極めた大岩根 尚さんから丁寧な説明を聴き、地形や地層に直に触れながら、何万年という時間軸で地球に起きてきたことを知り、そして体感するなかで
人間という存在が、自分が向き合っている「社会」というものが、とてつもなくちっぽけに思えて。
自分があまりにも無力に感じて。


先週末、5月なのに猛暑日となる地域があった。
昨年も、日本では大災害に見舞われる地域があった。
今年だって、もちろんそんなこと起きないにこしたことはないけれど、そう信じきるのは希望的観測が過ぎる気がする。そしてそのことが、地球温暖化と何の関係もないと考えることも、また同じくらい無理のあることに思える。
日本という国は地震の危機と隣り合わせ、そしてプレートの移動は火山の噴火を引き起こし、日本列島に1万年周期で訪れる大噴火まで、数百年、数千年と迫っているそうです。

こんな大きな大きな文脈の中で起きている気候変動。
そう考えると、人間とはいかにちっぽけなものか。

それにもかかわらず、人間は地球に温暖化を引き起こし、生物全体を脅かしている。

地球という文脈のなかで、いったい人間とはなんなのか。

地質学者として気候変動の調査のために南極にまでいったひさしさんはきっと、そんな視点でずっと地球を見てきて。
絶望することもたくさんあったんじゃないかと思っていて。
でも、あるいはだからこそ、硫黄島に移り住み、自然を感じながら生きて、そんな暮らしを世の中に届けようとしていて。

その姿がとてつもなくかっこよくて。

硫黄島から帰ってきて、そんなことをずっと考えている。
答えはもちろんでない。

なんだか堂々巡りで。


でもふと、硫黄島で感じたことはそれだけじゃなかったな、って。

それは、自分がいまとてつもなく生きてるってこと。

海を目の前に天然の温泉につかったり、大自然のなかでシーカヤックを漕いだり、雲ひとつない空の下で海に飛び込んだり、綺麗な海をぼーっと眺めながら釣りしたり、みんなで酒を飲みながら語らったり。
旬を迎えた大名筍や、カツオ、鯛など近海の恵みを堪能したり、ジャンベとアフリカンダンス体験で思いっきりはしゃいだり。
流れ星がいくつも流れる星空を時間を忘れて眺めたり、真っ赤な朝陽に涙したり、開聞岳に沈む夕陽に心から感動したり。


大自然の中で、時間さえも忘れて、いま目の前に起こることに没頭して。
とてつもないエネルギーを放つ海、山、空、大地と丸腰で向き合って。
そんな自然に照らされて、自分の深いところから湧き上がるエネルギーを感じて。

そんな中で感じたのは、生きてるなーってことだった。


それもまた、まぎれもない事実。

それを思い出して、なんだかとっても嬉しくなった。
なんか、「生きてるんだから仕方ないか」、と、開き直ってみた。
地球も生きてる。
おれも生きてる。

一緒に生きるためにはどうすればいいか。

人間が特別だとは思わない
あまたいる生き物の、ひとつ。
でもできることがある


目の前だけにとらわれず、
壮大すぎる時の流れに絶望することなく。
自分ができることはなにか、考えていこう。


今はとりあえず、ここまで。

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